Q;父が死亡しましたが、共同相続人の一人である兄が父の遺産を独り占めしています。そこで、私は、遺産の分割をしてもらいたいのですが、どのようにしたらいいでしょうか?【遺産分割】
A;まず、共同相続人全員で遺産分割協議ができないかを検討します。この協議は、全員が一堂に会して行うのが通常ですが、書面や持ち回りで行うこともできます。全員が納得して協議が成立すれば、分割内容は平等である必要はありません。
この協議は全員の意思の合致が必要であって、多数決によることはできません。また、いったん成立した協議は基本的にやり直しができません。協議が成立したら遺産分割協議書を作成し、全員の実印を押し印鑑証明書をつけます。
Q;遺産分割協議が調わない場合や、遺産分割協議に応じない共同相続人がいる場合は、どうすればいいですか?【遺産分割】
A;遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないときや協議をすることができないときは、その分割を家庭裁判所に請求することができます。ただし、すでに分割協議が有効に成立し、その内容に不満があるに過ぎないような場合は請求することはできません。
Q;遺産分割の請求方法を教えて下さい。【遺産分割】
A;共同相続人間で協議が調わないときや、はじめから相続人の一人が協議に加わろうとせず協議ができない場合は、家庭裁判所に対し、いわば強制的解決方法である審判の申立てもできますが、当事者間の協議による解決が期待されている事項ですから、調停の手続きによることが望ましいとされています。
したがって、まずは、調停の申立てを行うことが一般的です。この申立ては、他の全ての共同相続人を申立人または相手方として行います(全ての共同相続人が手続きに関与することが必要です。)。
Q;「調停」とはどのようなものですか?詳しく教えてください。【遺産分割】【調停】
A;調停は、調停委員の立会いのもとに行われる協議ですが、内容は相続人全員の合意で成立し、強制されることはありません。そのため、合意が成立しないときは、調停は不成立で終了となります。これに対し、調停が成立すれば合意のとおりの調停調書が作成されて終了します。この調書には確定判決と同じ効力が発生します。
Q;遺産分割調停でも話合いがまとまりませんでした。その場合、どうすればいいのですか?【遺産分割】【審判】
A;遺産分割調停で結論がでなかった場合、当該事件は、当然に審判手続きに移行することになります。この審判というのは、家庭裁判所がする一種の裁判のことです。裁判所は、当事者や利害関係人の言い分を聴き、調査を行って、具体的な分割の審判つまり決定をすることになります。
Q;先日、私の父が亡くなったのですが、父と同居していた私の兄が父の預金を管理していました。そこで、私は、その預金の内容を問い合わせたのですが、預金残高は300万円しかありませんでした。しかし、おそらく兄は、父の生前から預金を引き出して使っていたと思います。この場合、現在残っている300万円しか相続財産にならないのでしょうか?【遺産分割】【特別受益】
A;お父様の生前にお兄様が引き出した預金が、お父様からお兄様への贈与であり、かつ、それが特別受益にあたるとすれば、その引き出された預金額が相続財産に加えられることになります。
また、お父様がお亡くなりになった時点で預金口座に残っている預金は原則として相続財産になりますから、それをお兄様が勝手に引き出したとしても、結論は変わりません。
したがいまして、お父様の預金口座に現在残っている300万円に加え、特別受益分とお父様の死後に引き出された預金は、遺産分割の対象になります。
Q;私の父が先日亡くなったのですが、共同相続人である義母が、父の土地を自分一人で相続したものとして、勝手に義母の単独名義に名義変更してしまいました。なにか主張できることはありますか?【相続回復請求権】
A;義母に対して、相続持分の割合による共有登記に更正する登記手続きの請求を行うことができます。これに対し、義母は、相続回復請求権の消滅時効を主張してくる可能性があります。
Q;「相続回復請求権」とはどのようなものですか?詳しく教えて下さい。【相続回復請求権】
A;相続回復請求権は、自称相続人(共同相続人ではないが、相続人を自称している者)が、相続人の相続権を侵害している場合に、自己の相続分を侵害された相続人が、その侵害を排除して相続権を回復させる権利のことです。
この相続回復請求権は、もともと(共同相続人ではない)自称相続人からの侵害を念頭においた規定でしたが、共同相続人が自己の相続分を超えて他の共同相続人の相続分を侵害している場合に、その侵害された共同相続人が侵害を排除するときは、相続回復請求権の規定が適用されることとなっています。
そして、この相続回復請求権は、相続権を侵害された事実を知ったときから5年、相続開始時から20年で時効により消滅する(この期間が過ぎたら登記の更正を求める権利が消滅する)こととなっているため注意が必要です。但し、この相続回復請求権の規定(民法884条)が適用されるか否かは事案によって異なり、上記の期間を過ぎても請求できる場合もあります。
Q;先日、私の夫が亡くなり、相続人は夫の母と妻である私の2人です。そして、夫は、妻である私に全ての財産を相続させる旨の遺言書を残していました。しかし、母から、このような遺言は認めない旨のことを言われました。私には遺言書があるのに、夫の全財産を相続することはできないのでしょうか?【遺留分】
A;お母様から遺留分減殺請求をなされた場合、お母様の遺留分の範囲でご主人の財産を相続することはできず、お母様に引き渡さなければなりません。
Q;「遺留分」と「遺留分減殺請求権」とはどのようなものですか?詳しく教えて下さい。【遺留分】【遺留分減殺請求権】
A;遺留分とは、被相続人の財産のうち相続人に残さなければならない割合のもので、被相続人が贈与等しても相続人が保留できるものです。この遺留分を請求できるのは、兄弟姉妹以外の相続人です。
ただし、この遺留分を侵害する遺言も全て無効となるわけではなく、遺留分を侵害された遺留分権利者が、遺留分減殺請求を行って初めて問題となります。
本件では、お母様が遺言は認めない旨の発言をされているとのことですから、遺留分減殺請求をしてくるものと思われますので、その場合、ご主人の全財産を相続することはできないということになります。
弁護士吉村実(弁護士法人ポート法律事務所)